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福島地方裁判所 昭和30年(タ)15号 判決

主文

原告と被告とを離婚する。

原、被告間の長女房子、長男敏雄の親権者を原告と定める。

被告は原告に対し金五、〇〇〇円を支払え。

被告は原告に対し昭和三〇年一〇月から昭子及び保雄がそれぞれ満一八才に達するまで右両名の監護養育費用として一子につき一箇月各金一、〇〇〇円ずつを支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(省略)

理由

甲第一号証(戸籍謄本)、証人木村トミ、安田浩の各証言及び原被告各本人尋問の結果によれば、原告は瓦製造業を営む木村孝、木村トミの長女として生れ、昭和一六年五月八日孝の死亡によりその家督を相続したが、原告家は女手ばかりで瓦の製造販売に差支えるので、昭二二年六月頃当時中学生であつた原告と将来めあわせるため、近くの安田勉の五男である被告を迎い入れて家業に従事させ、昭和二五年三月頃原被告は婚姻の式を挙げ、同年一二月二〇日その届出(被告は原告の氏を称しその戸籍に入る)をなし、その間に昭和二六年六月三日長女房子を挙げ、昭和二八年八月二六日長男敏雄を挙げたことが認められる。

当事者間に争なく当裁判所が真正に成立したと認める甲第二ないし第一〇号証、乙第一、二号証、証人木村トミ、木村直、石川清一、齊藤三之助、安田浩の各証言及び原被告各本人尋問の結果を総合すれば、被告は原告と婚姻した当初は家業に精出し家庭は円満であつたが、事業に計画性なく他面浪費癖があり、その上昭和二八年頃から被告は競輪、競馬などにこつて売上金を費消したり、又夜遅く飲酒して帰宅することが度々あつて、そのため原告らから注意されると憤慨して乱暴をはたらき、同年六月頃及び昭和二九年一〇月頃の二回は特にひどく原告を殴打し、原告らと次第に不和となつた。それで被告の将来を心配した木村、安田両家の親族らが集つて対策を協議し、昭和二九年一〇月一七日には、被告に対し家庭の円満をはかるため、家長たるトミを中心に事業その他のことに関し話合い、家庭の紛争を来すような言動をつつしみ、トミの指導計画のもとに事業を実行することを誓わせ、同月二三日には、原告家の資産内容を調査のうえ、事業の再建振興を協議し、又同年一一月一八日には被告を世帯主とし被告に家業一切を委せ、その責任の自覚により家業に精励することを期待した。しかし被告は事業の経営についても、浪費についても改めるところなく借財は量む一方であつた。そのため原告及びトミらは被告に不満を感じていたが、その矢先被告は山村健と称する朝鮮人と共同で場外馬券を扱う関東競馬案内二本松出張所の経営に携わるようなことをしたため、親族から注意され右経営から脱退することとしたが、その脱退のため山村から要求せられ金五〇、〇〇〇円を支払わなければならない破目に陥入り、その金員の支払をトミに仰ぐようなことになつた。そして昭和三〇年三月四日被告は原告及び二子を原告家においたまま父勉方に帰り、その後における原告らの生活を一切顧みなかつたばかりか原告らに無断で瓦の売掛代金を得意先から取立てて費消するような状態であつた。そこで原告は被告と離婚することを決意して福島家庭裁判所に離婚の調停を申立てたが、被告は父勉がトミの大平村農業協同組合に対するセメント代金六二〇、〇〇〇円余の債務についてなした保証債務を免脱するならば離婚の調停に応ずるが、それなしには応ぜられない意向を示し、右の調停は不調に終つた。そしてその頃被告らの支援のもとに同組合からトミに対してのみ右セメント代金請求訴訟が提起され又原告らの使用している建物につき処分禁止の仮処分執行がなされるに及んで原被告はもとより木村家安田家両家を挙げての紛争状態に立到つたことが認められる。

以上認定に反する乙第三ないし第七号証、証人三浦喜久治、長尾武司、安田浩の各証言及び被告本人尋問の結果一部は措信しない。その他右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実から被告が昭和三〇年三月四日原告方を出て、原告に対し扶助をなさないことは明らかであるが、被告が悪意を以て原告を遺棄したかどうかの点についてさらに考えると、被告は原告方を出る当時、原告及びトミから反目せられるとともに負債が多くなり、委された家業の運営に困難を感じ、自らこれを放棄して実家に帰つたこと及び当時原被告間において夫婦の愛情は既に冷め、トミを中心とする木村家と被告及びその父勉らの安田家は感情的に対立して険悪な空気をはらみ、双方とも原被告は離別するもやむを得ないと考えるようになつた結果、被告は原告方に居たたまれずトミに話し、身廻り品を持つて実家に帰つたこと、甲第八号証、証人木村トミの証言、同三浦喜久治の証言(一部)及び原被告各本人尋問の結果によりうかがわれるので、被告が原告を悪意を以て遺棄したとは断定し得ない。しかし前記認定の諸事情に鑑みるときは、原被告が互に協力して円満な家庭生活を継続することは極めて困難であることが認められ、従つて婚姻を継続し難い重大な事田があり、原告の離婚請求は理由があるといわなければならない。

次に慰藉料の請求につき考えると、以上のような離婚せざるを得なくなつたのは、被告の責に帰すべき事由によるものであること前記認定の事実から明らかであつて、このため原告が多大の精神上の苦痛を被つたことは容易に認められるところであるから、被告は原告に対し精神的苦痛に対する慰藉料を支払うべき義務がある。前記甲第一号証、証人木村トミ、安田浩の各証言並びに原被告各本人尋問の結果により、原告は昭和九年一月一九日被告は昭和三年二月二七日の生れでともに初婚であつたこと、被告は原告家に入り、女手ばかりの中にただ一人の男として約七年にわたり瓦製造販売に当り、その経営については失態もあつたけれども、瓦の製造販売にはその中心主力となり事業を遂行し原告家に貢献したこと並びに被告には何等の資産なく父勉方に帰つてからは、その営む農業の手伝いなどをして現在に及んでいることが認められ、その他本件弁論にあらわれた諸般の状況を総合して考慮すると被告が原告の精神的苦痛に対する慰藉料は金五〇、〇〇〇円を相当とする。

そして原被告間の長女房子、長男敏雄の親権者については、証人木村トミの証言及び原告本人尋問の結果により、被告が昭和三〇年三月四日原告方を出てから後は、原告らにおいて一箇月約金五―六、〇〇〇円の費用を支出し、専ら原告が房子、敏雄両名の監護養育に当つてきたことが認められ、両名とも幼年にあること並びに原被告の現在における地位境遇並びに諸般の事情を比照して考慮するときは、右両名の親権者を原告と定めることが相当であり、被告の監護養育費用の負担については各両名が満一八才に達するまで一箇月一子につき金一、〇〇〇円ずつ負担するのが相当であると認められるから、房子、敏雄両名の親権者を原告と定め、又両名の監護養育費用として原告が被告に対し本訴において請求したこと本件記録上明らかな昭和三〇年一〇月から右両名がそれぞれ満一八才に達するまで一子につき金一、〇〇〇円ずつ支払うべきものとする。

原告の本訴請求は右の限度において正当であるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 羽染徳次 長田弘)

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